第一学期の研修を終え、第二学期へ。
授業はオンラインになり、私は勉強を続けながら、夕方から介護施設で働いていました。
この頃は、学校と仕事の両方を経験しながら、少しずつ「看護師として働く」ということを実感し始めていた時期でした。
そんなある日のことです。
今でも忘れられない出来事が起こりました。
🌿 認知症フロアでの、いつもの夕食
私が働いていたのは、認知症のある利用者さんが多いフロア。
夕食の時間になると、ダイニングに集まって食べる方もいれば、お部屋で食べる方もいました。
その日、私は先輩スタッフに、
「5番さんに夕食のトレーを運んで、その後、1番さんの食事介助をします」
と伝えました。
5番のお部屋のトレバーさんは、ベッド上で食事をする方。
ベッドを起こして座りやすい姿勢にし、オーバーベッドテーブルをセット。
食事とスプーンやフォークを手の届く位置に置き、必要な準備をしてから声をかけました。
そして私は、1番さんの食事介助へ向かいました。
🍦 いつものように見えたトレバーさん
1番さんの食事が終わり、アイスクリームを取りにダイニングへ向かいました。
その途中、5番のお部屋の前を通ります。
ちらっと中を見ると、
「あ、いつも通り、ご飯の途中で寝てるんだな」
そう思いました。
トレバーさんは普段から、食事を途中でやめてしまったり、お腹いっぱいになると、そのままベッドの上で寝てしまうことがある方でした。
だから、そのときも特に不思議には思いませんでした。
アイスクリームを1番さんのところへ持っていき、食事介助を終えます。
「トレバーさんも、そろそろ食べ終わっているかな」
そう思い、食器を下げるために5番のお部屋へ戻りました。
ここまでは、いつも通りでした。
でも――
このあと、空気が一変します。
😨 「トレバーさん、お食事どうでしたか?」
部屋の前でノック。
「トレバーさん、お食事どうでしたか?」
いつものように声をかけました。
返事はありません。
眠っているのかな?
そう思いました。
でも、何かがおかしい。
もう一度、トレバーさんの顔を見ました。
そして、気づきました。
呼吸をしていない。
顔も青白くなっていました。
「え……?」
一瞬、何が起きているのか分かりませんでした。
頭が真っ白になりました。
「どうしよう……」
急いで緊急呼び出しボタンを押そうとします。
でも――
鳴らない。
緊張していたせいか、うまく作動させることができません。
私はその場を離れ、近くのダイニングにいた先輩スタッフのところへ走りました。
「Trevor is not breathing !」(トレバーさんが息をしてません!)
先輩がすぐに緊急呼び出しボタンを作動させ、ナースにも連絡が入りました。
すると、施設のスタッフが次々とトレバーさんのお部屋へ集まってきました。
🏥 「心肺蘇生をするんじゃないの?」
私は、ナースが来たらすぐに心肺蘇生を始めるのだと思っていました。
「ベッドを平らにしないと……」
そう思い、リモコンを操作してベッドを寝た状態に戻そうとしました。
すると、
「〇〇さん、ベッドを動かさなくていいよ」
ナースにそう言われました。
「え?」
なぜ?
私は状況が理解できませんでした。
そして、施設のマネージャーであるRNから、
「Trevor is already gone.」(トレバーさんはもう亡くなっています)
と伝えられました。
その言葉を聞いた瞬間、
「あ……」
ようやく、現実を理解しました。
💬 そのとき聞こえた「Are you guys okay?」
スタッフが集まる中、マネージャーが私たちに声をかけました。
「Are you guys okay?」
その言葉が、今でも強く心に残っています。
私はその瞬間まで、
「私、大丈夫かな……」
「何か私が悪かったのかな……」
そんなことばかり考えていました。
トレバーさんに夕食を運んだのも私。
その後、別の利用者さんの食事介助へ行ったのも私。
「その間に何かあったのでは?」
「もしかして、食事が喉に詰まったのでは?」
いろいろな考えが頭の中を駆け巡りました。
でも、マネージャーが最初に心配してくれたのは、私たちスタッフのことでした。
その瞬間、張りつめていたものが一気に崩れました。
一旦、I’m okayと言ったものの、涙を堪えることができませんでした。
「Actually, I’m not OK.」
マネージャーは私を抱きしめてくれました。
その後、マネージャーから死亡原因は窒息ではなかったと報告を受けました。
💭 「もっと早く気づいていたら……」
今でも、ときどき考えます。
アイスクリームを取りに行くとき、
もう少しトレバーさんの近くまで行って、
「トレバーさん、調子どうですか?」
と声をかけていたら。
もう少し早く気づいていたら。
何か違っていたのかな……と。
もちろん、本当のところは分かりません。
私が早く気づいていたら助かったのかどうかも、私には分かりません。
それでも、
「あのとき、もう一度声をかけていたら……」
という思いは、今でも残っています。
🌿 2〜3年経った今でも
あれから2〜3年。
それでも、トレバーさんのことは忘れられません。
介護の仕事では、
食事を運ぶ。
声をかける。
食器を下げる。
そんな「いつもの仕事」を毎日繰り返します。
でも、その「いつも通り」の中で、突然、予想もしなかった出来事が起こることがあります。
あの日、最後にトレバーさんにかけた言葉。
「トレバーさん、お食事どうでしたか?」
今でも、ときどき思い出します。
そして思います。
あの日のことを忘れないこと。
トレバーさんのことを覚えていること。
それもまた、私が介護・看護の現場で学んだ大切なことの一つなのかもしれません。

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